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大阪高等裁判所 昭和48年(ラ)21号 決定

抗告人(第二一号) 斉藤照一(仮名)

相手方(第二一号) 河合さと子(仮名) 外二名

主文

原審判を次のとおり変更する。

原審相手方は、原審申立人河合さと子および同河合幸夫の各自に対し、昭和四六年六月二五日からこの決定の送達を受ける日までの間一か月金一万三、〇〇〇円の割合の金員を即時に京都家庭裁判所峰山支部に寄託して支払い、かつ、右送達日の翌日から右申立人らが一八歳に達するまでの間右同割合の金員を毎月末日かぎり右裁判所支部に寄託して支払え。

原審相手方は、原審申立人河合登志子に対し、原審判添付目録記載の株券のうち○○鉄工の株券以外の各株券に表章された各株式を譲渡し、そのためその各株券を交付せよ。

原審申立人河合登志子は原審相手方に対し右○○鉄工の株券全部を引渡して返還せよ。

一、本件各抗告の要旨

原審相手方は、原審判中、扶養料に関する部分はともかくとして、離婚につき、原審相手方を一方的な有責者と認定して慰藉料支払を命じ、財産分与額を二五〇万円と認定しながら時価四一八万余円の株式の分与を命じた部分は全く不当であるから、原審判の取消しを求めるというのであり、原審申立人らは、要するに、原審判の扶養料および財産分与についての認定額は少なすぎるから原審判の取消しを求めるというのである。

二、本件審判申立の趣旨およびその実情

原審判記載のとおりであるからこれを引用する。

三、当裁判所の判断

(一)、原審申立人河合さと子および同河合幸夫の扶養料支払いの申立について

原審記録中の戸籍謄本、協議離婚届書写、所得税確定申告書写、ならびに河合武、杉本新介、原審申立人河合登志子および原審相手方各審問調書によれば、原審申立人河合登志子と原審相手方は、昭和三六年一二月一七日結婚式を挙げ、昭和三七年二月婚姻の届出を了し、その間に、昭和三九年一二月二日長女さと子(原審申立人)を、昭和四二年一一月二二日長男幸夫(原審申立人)を儲けたが、昭和四六年六月二日原審申立人河合登志子を同さと子および同幸夫の親権者として協議離婚したこと、現在原審申立人河合さと子は小学校三年生であり、同河合幸夫は幼稚園の児童であるが、両名とも、原審申立人河合登志子の監護養育を受け、同女とともに祖父河合武方に寄寓して同人の生活援助を受けていること、原審申立人河合登志子は、原審判添付目録記載の原審相手方名義の株券を事実上保管しているほかには殆んど資産がなく、現在臨時の勤務先に通い日給一、二〇〇円を得ており、現在再婚の意思はないこと、原審相手方は、昭和四五年三月頃婚姻中に貯蓄した金銭、親族その他からの借入金などを資本として、従業員一、二名を雇う程度の比較的小規模のガソリンスタンドを経営し、現在その営業は経理上は赤字の状態であるが、資産家である実父の援助もあつて、地方の小企業主相応の比較的余裕のある生活を維持しており、右営業も将来序々に発展する見込みもなくはないこと、をそれぞれ認めることができる。

右事情によれば、原審相手方に原審申立人河合さと子および同河合幸夫に対する扶養料の支払義務を認めるのが相当であり、昭和四七年四月七日厚生省告示第八六号による生活扶助基準のうち四級地(右原審申立人らの住居地は四級地である。)の基準生活費の額に基づき、仮に右原審申立人らが一世帯を構成するものとして一か月の生活費を算出し、これを二分すると金八、二二三円になること、右原審申立人らの生活費は同人らが将来中学校や高等学校へ進学するにつれて当然増加すること、右扶養義務はいわゆる生活保持の義務であつて、原審相手方はその生活程度に応じ自己の子としてふさわしい程度の扶養をすべきものであること、原審申立人河合登志子も自己の収入に応じ原審申立人河合さと子および同河合幸夫の扶養費用の若干を負担すべきことなどを合せて考量すると、右扶養料の額としては右原審申立人ら一人につき一か月金一万三、〇〇〇円が相当であるから、原審相手方に対し本件調停申立日の昭和四六年六月二五日から右原審申立人らがそれぞれ高等学校を卒業して就職できると考えられる一八歳の年齢に達するまで毎月末日かぎり右各金額を原審裁判所に寄託して支払うよう命ずるのが相当である。

(二)、原審申立人河合登志子の財産分与の申立について

前掲各証拠に、原審記録中の各訟断書、○○郵便局長の在職期間証明書、給与所得源泉徴収票写、郵便貯金通帳写、定期預金計算書写、株式についての調査嘱託回答書、所得税確定申告書写、○○相互銀行の回答書を総合すると、次の事実が認められる。

原審相手方と原審申立人河合登志子は、前認定のとおり、婚姻して二子を儲けた後協議離婚し、その婚姻期間は約一〇年であつたが、夫婦は最初は○○市内の借家で同棲し、約三年後原審申立人河合登志子の実父方でその家族と同居するとともに原審相手方は右登志子の両親と養子縁組した。

原審申立人河合登志子は、郵便局に電話交換手として勤務し、右住居から通勤しながら家事や育児を担当していたのに対し、原審相手方は、○○相互銀行に勤務し、婚姻当初は右住居から○○支店へ通勤していたが、その後遠隔地の本店や支店への転勤が重なり、そのため一週間に一回ぐらいしか帰宅できない状態であつた。

原審相手方は、金銭に細かく吝嗇な性格で、婚姻当時から約六年間原審申立人河合登志子の給料の大部分を自ら管理し、自己の給料とともに極力貯蓄にまわしていたが、その反面ほしいと思う自動車や電気器具などは独断で購入し、原審申立人河合登志子の実父方に同居した際同人に金三〇余万円を贈与したこともあつた。また、原審相手方は、短気で、原審申立人河合登志子の感情を思いやりこれをいたわる配慮が乏しく、共稼ぎや自己の転勤にともなう別居に原因する不満も手伝つて、同女に対し屡々暴力を振い、同女に熱湯入りの薬罐を投げついて火傷を負わせたこともあつた。原審申立人河合登志子は、婚姻当初から自己の小遣銭にも窮する状態が続き、原審相手方の右のような性格や行動に反撥心を抱きながらも、婚姻を継続するため忍耐を重ねたが、その心労も原因となつて健康を害するようになつた。

原審相手方は昭和四四年一二月頃右相互銀行を退職してガソリンスタンドを開業し、原審申立人河合登志子も、原審相手方の要請によつてその頃郵便局を退職して右営業を手伝うようになつたが、原審相手方に対する不満が増大するとともに昭和四五年二月頃メヌエル氏病に罹かり、遂に離婚を決意し、原審相手方も婚姻継続を断念するに至つた。

原審申立人河合登志子が郵便局から昭和四一年一月から昭和四四年一〇月六日の退職日までに受けた給料および賞与の合計額は二一九万〇、九九四円であり、婚姻当時の昭和三七年一月から昭和四〇年一二月までの給料および賞与の額は、昭和四一年における平均月収が約三万円であること、それまで順次昇給したであろうこと、および婚姻当初の月収は約一万五、〇〇〇円であつたことを参考にして、右の間の平均月収を二万二、五〇〇円として推算すると、合計一〇八万円となるから、これに退職金五〇万円を加えると、原審申立人河合登志子が婚姻中郵便局から受けた推算給与総額は三七七万〇、九九四円となる。

原審相手方が相互銀行から昭和四二年一〇月以降昭和四四年一二月の退職時までに受けた給料および賞与の合計額は一六九万五、六四五円であり、婚姻当時の昭和三七年一月から昭和四二年九月三〇日までの給料および賞与の額は、昭和四二年一〇月から同年一二月までの平均月収が六万六、四七一円であること、それまで順次昇給したであろうこと、および婚姻当初の月収が約二万円であつたことを参考にして、右の間の平均月収を四万三、二〇〇円として推算すると、合計二九八万〇、八〇〇円となるから、これに退職金一九万五、〇〇〇円を加えると、原審相手方が相互銀行から婚姻中に受けた推算給与総額は四八七万一、四四五円となる。(原審判は、原審相手方および原審申立人河合登志子の給与および賞与の推算につき、確証のある各年度における給与および賞与の増加率を参照して平均増加率を定め、これを適用して逆算する方法を採つているが、右の確証のある各年度における増加率はその差が大きく不規則なものであるから、右の方法が必ずしも合理的であるとはいえない。)

原審相手方および原審申立人河合登志子が婚姻中得た財産で現存するものは、ガソリンスタンド営業に投資されたもの、原審相手方名義の原審判添付目録記載の株券による株式、原審相手方名義の○○相互銀行○○支店における残高一二万九、〇〇〇円の普通預金、原審申立人河合登志子名義の右銀行△△支店における金二万五、〇〇〇円の定期預金、自動車電気器具その他の家財道具などであるが、右家財道具は相当使い古されたものでその現価格は僅少であり、右株券は現在原審申立人河合登志子が事実上保管しているけれども、それは原審相手方が婚姻継続に望みを託しつつ預託したことによるもので、株式譲渡のため交付したものではないところ、その株式の東証第一部における昭和四八年七月一四日の時価(同年同月一五日付朝日新聞商況欄参照)は別紙目録のとおり合計三七八万一、五四三円である。なお原審申立人河合登志子は自己の退職金五〇万円をすでに取得しこれを自己の実父に贈与した。

右認定の事実によれば、原審相手方と原審申立人河合登志子が婚姻中に得た財産額は両名の勤務先からの収入だけであつて、前認定の推算給与総額の合計八六四万二、四三九円であり、これに対する両名の寄与度は平等であると認めるのが相当であるから、右合計額から二分の一の生活費を控除し、その残額を二分すると二一六万〇、六〇九円となる。そして、両名の婚姻の破綻は、共稼ぎおよび原審相手方の転勤にともなう別居による夫婦生活の不自然さにも起因すると考えられるが、原審相手方が、金銭に固執するあまり、原審申立人河合登志子に対し、その妻ないし主婦としての立場を尊重せず、思いやりといたわりの配慮が乏しかつたためその言動が概ね冷酷であつたことに起因することは否定できないから、原審相手方は原審申立人河合登志子に対し離婚についての慰藉料として金五〇万円を支払うべき義務を負つていると認めるのが相当である。そして、右原審申立人は昭和四七年四月から臨時就職して収入を得ているが、将来も就職して自己の生活費程度の収入を得ることは困難ではないと考えられるから、同女の右就職時以後の扶養料を考慮する必要はないけれども、本件離婚の昭和四六年五月から右就職時までの約一年間は同女は無収入であつたから、原審相手方は右原審申立人に対しその間の扶養料を支払うべきであり、その金額は一か月一万五、〇〇〇円の割合で合計一八万円と認めるのが相当である。

そうすると、原審相手方は、原審申立人河合登志子に対し、慰藉料および扶養料を含めてほぼ二八四万円に相応する財産を分与すべきであり、これに相当するものとして、右原審申立人の退職金五〇万円および右定期預金二万五、〇〇〇円を右原審申立人が取得することを承認するほか、前記株式のうち○○鉄工以外の株式を右原審申立人に譲渡しそのためその株券を交付すべきもの(この引渡すべき株式の時価合計は二三二万一、一六七円となり、これと右退職金および預金との合計額は二八四万六、一六七円となる。)と認めるのが相当であり、右原審申立人は事実上保管している○○鉄工株券七〇二一株を原審相手方に返還すべきである。

原審判は以上の判断と異なるところがあるから、本件各即時抗告はいずれも一部理由があり、かつ、本件では当裁判所自ら審判に代わる裁判をするのが相当であると認めるので、原審判を以上の判断に副つて変更することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柴山利彦 裁判官 東民夫 辰巳和男)

株式目録

銘柄     株数    時価(円)   合計額(円)

三越    一、五三七   六四一   九八五、二一七

大丸    一、五〇〇   三七六   五六四、〇〇〇

大和工業    五三〇   五一五   二七二、九五〇

大協石油    七五〇   二三二   一七四、〇〇〇

池貝鉄工    五〇〇   一二二    六一、〇〇〇

新潟鉄工  七、〇二一   二〇八 一、四六〇、三七六

日本甜菜糖 一、六〇〇   一六五   二六四、〇〇〇

合計                三、七八一、五四三

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